Bi-Bo-6

Bi-Bo-6

記憶を記録 feat. 宇田川藍

メディアの外側から COVID-19 国内症例マップ を発信する意味、オープンデータとシビックテック

※以下の記事の続編のようなもの。
COVID-19 国内症例マップ(ダッシュボード)を作成して考えたこと - Bi-Bo-6
※3月2日AM: 見出しを整理しました


ダッシュボード本体 *URL変更になりました/レスポンシブ対応  *1 gis.jag-japan.com

前回は、GISを用いた「視覚化」について詳しく書きました。
今回は、大項目として3つのことを書きたいと思います。広くオープンデータについて取り上げようと思います。


(1)報道機関・メディアではない私達がマップを作る意義を考える

なぜこれを主題にしたかというと、このダッシュボードが他の報道機関が行っているビジュアライズ*2と比較される事が多いからです。これは想定内でしたが、意図していないことでした。逆に言えば、社会事象の視覚化とその方法論が取り沙汰されるのも、報道の業界くらいでしょうか。

日経さんのように、以前からデータのビジュアライズ、視覚化などをテーマに活動されている媒体もありますが、多くの報道機関にとって、地図や図郭というのは「情報を効率よく伝達するための手段」であって、それそのものが「目的」ではないと考えます。また、報道の世界においては「速報性」「簡潔さ」「(信頼できる情報源からの)独自情報」「画一的でない論評」といった要素が求められる場面が多々あります。「分かりやすい絵」というのは、逆に言えば情報を二次元に落とし込んで文字通り平面にさせてしまうことであり、各社のアイデンティティが反映しづらいコンテンツでもあります。

GISダッシュボードだから表現出来ること

ですから、このダッシュボードが役に立つと思いました。報道ではない立場から投げ込むことによって面白い問題提起が出来るのではないかと思いました。

今回私達が設定したテーマには、「官公庁や自治体が公表するPDFやテキストといった情報から、"それ"だけで、いかに立体的なデータを作り上げることができるか」というものがありました。

表組みや色塗り、チャート化だけでももちろんきれいな表現ができるけれども、多面的な視覚化を行い動的なダッシュボードを作ることで、

  • 現在公開されている、一見すると断片的だったり不十分にも見える情報を再構築することで、新たな知見が得られるという一つの成功体験を得ること

  • データ整形と視覚化デザインにかかるコストや、本来行政が行うべきオープンデータ化とその利用価値についてより多くの人に気がついてもらうこと

この2点をパッケージにして伝えることが出来ると考えました。

運用時に意識したこと

さらに、自分たちが報道機関ではない前提で運用時に意識したことは以下の通りでした。

  • 速報性よりも確実性を取る: ソースを明示しリンクを貼る、定期的に全件確認

  • 集計の定義は固定する: DP号の扱いやプロット住所の粒度などを細かく定義する

  • 不具合や改善意見について随時確認、検討する: 無理なくパッシブに運用する

これらを可能な限り柔軟に行うようにしました。実際、データの確実性について質問や意見を頂戴したり、グラフの追加をリクエストいただき出来るものがあればお応えするようにしました。UIの改善やデータの表示内容を行うたびに、便利さ(機能が追加されること)と不便さや違和感(画面デザイン、操作が変わること)のバランスのとり方が難しいと感じます。

ということで、これは私たちの願いなのかもしれませんが、このダッシュボードが「情報の真贋や価値」を考え直す、一つのきっかけになれば大変嬉しく思います。


(2)元データから情報公開の現状を知る

さて、実際にどういったところからデータを収集しているかをまとめておこうと思います。

厚生労働省のページを見てみる

報道発表一覧(新型コロナウイルス)|厚生労働省
3月1日〜3月2日にかけてページの大幅改訂があり、リンクが整理されました。
もとより、「1.日次での個別事例報告」「2.全件対象の日報」の2本立てでしたが、今回のページのリ・デザインでその分類が分かりやすくなりました。
「1」は、通し番号と性年代、そして自治体の報道発表のPDF(文字通り一次ソース)が必ずリンクされるようになりました。PDFファイルも厚労省のサーバー内に格納されています。2月中旬ごろは直リンクでした。
「2」は、我々「答え合わせ」と呼んでいる、本件に関する厚労省の正式な公表情報です。日によって簡易版(集計表だけ)のことがありますが、日付をさかのぼってでも、必ず1日単位で公表するようになっています。
2月中頃から追いかけてきた身としては、マイナーチェンジという形で、日々改善されている印象を受けます。

地方自治体のページを見てみる

弊社チームで2週間ほどデータ更新を追いかけてきて、それぞれの自治体の情報公開への姿勢や特徴も見えてきました。尚、公開されている情報については、いずれも本人の意思(同意)によりその項目や内容に違いがでることを知っておく必要があります。情報が少ないからといって必ずしも行政の不手際ではありません。自治体によって「公表を得られなかった」と明記する場合とそうではない場合もあるようです。

※当該市区町村が「保健所政令市」の場合、[保]を記載します。
※3月1日時点です。
※いずれも筆者が目視で確認しております。確認漏れがあるかもしれません、お許しください。 ※2月29日時点で、1例でも感染者(PCR検査陽性)の公表を行ったことのある自治体(都道府県、市区町村)を対象とします。

表長いです…読み飛ばしてもらって全然OKです

都道府県 市区町村 PDF公開 table形式or構造化 検査数公表 メモ 参照URL
北海道 - 記者会見と同時にPDFのアップ(最速と思われる)。 新型コロナ:道内の発生状況 | 保健福祉部健康安全局地域保健課
北海道 札幌市[保] アンカーリンクで各症例に飛ぶ。構造化されている。 新型コロナウイルス感染症の市内発生状況/札幌市
宮城県 - テキストで症例を記載。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について - 宮城県公式ウェブサイト
宮城県 仙台市[保] 症例報告は厚労省のページへ誘導。 新型コロナウイルス感染症について(市民の皆様へ)|仙台市
栃木県 - 県ページに症例報告なし。 栃木県/新型コロナウイルス感染症について
埼玉県 - PDFのレイアウトが珍しいが情報はまとまっている。 新型コロナウイルスに関連した肺炎について - 埼玉県
東京都 - 第24報からテーブル形式に変えたが行動歴など詳細を省く。 東京都新型コロナウイルス感染症対策本部報|東京都防災ホームページ
神奈川県 - 一部 記者会見からページ更新までタイムラグがある。相模原市のPDFはリンクあり。県名義のPDFは厚労省ページからのリンクのみ。 新型コロナウイルスに感染した患者の発生状況 - 神奈川県ホームページ
神奈川県 横浜市[保] 症例報告は神奈川県のページへ誘導。 新型コロナウイルス感染症に関する情報について 横浜市
神奈川県 相模原市[保] (3/2修正)コロナウイルスの関連ページにはリンクがないが、「広報」ページにPDFあり。 新型コロナウイルス感染症に関する相模原市発表資料(発生状況等
新潟県 - 症例報告は新潟市のページへ誘導。 新型コロナウイルス感染症について(令和2年2月29日更新) - 新潟県ホームページ
新潟県 新潟市[保] PDFへのリンク。 新型コロナウイルス感染症について 新潟市
石川県 - ページへのリンクは分かりやすいところにあった。 石川県/新型コロナウイルス感染症の県内の患者発生状況
長野県 - 症例報告は厚労省のページへ誘導。PDFは厚労省ページからのリンクのみ。 新型コロナウイルス感染症対策について/長野県
岐阜県 - トップページからのリンクなし。症例報告なし。 岐阜県:新型コロナウイルス感染症について
静岡県 - 症例報告なし。 静岡県/新型コロナウイルスに関連した肺炎について
静岡県 静岡市[保] PDFへのリンク。 新型コロナウイルス(COVID-19)に関する情報について:静岡市
愛知県 - PDFへのリンク。 中国湖北省で報告されている新型コロナウイルス感染症について - 愛知県
愛知県 名古屋市[保] PDFリンク分かりやすい。週報もあり。 名古屋市:新型コロナウイルスに関連する肺炎について(暮らしの情報)
名古屋市:名古屋市感染症発生動向調査情報(週報・月報)(暮らしの情報)
和歌山県 - 1症例目以降、日報を出している。全員の経過、関係性や検査結果の詳細あり。自治体の公開情報としては一番丁寧と思われる。 和歌山県における新型コロナウイルス感染症発生状況 | 和歌山県
大阪府 - 分かりやすいところにリンクあり。症例報告とその他の報告が混ざっている。 大阪府/新型コロナウイルス感染症について
大阪府 大阪市[保] 症例報告は厚労省のページへ誘導。 大阪市:新型コロナウイルス感染症について (…>健康・医療>感染症・病気に関すること)
高知県 - PDFへのリンク。 高知県における新型コロナウイルス感染症患者の発生状況について | 高知県庁ホームページ
福岡県 - テキストではあるが要点がまとまっている。 (2)新型コロナウイルス感染症の患者の発生状況について
福岡県 福岡市[保] テキストではあるが要点がまとまっている。福岡県の書式に倣う。 福岡市 新型コロナウイルス感染症について
熊本県 - 知事の動画あり。 新型コロナウイルス感染症 / 熊本県
熊本県 熊本市[保] 各症例ごとに日報で経緯を公表。PDF内、行動歴を唯一表組みで公開している。 新型コロナウイルス感染症について / 熊本市ホームページ
沖縄県 - 目立つところからのリンクが見当たらず、サイト内検索で発見。 沖縄県における新型コロナウイルス感染症発生状況/沖縄県


少なくとも症例報告に関しては5つくらいの分類ができそうです。

1. 症例報告を最重要情報と認識し、ページの構造化、質と量ともに、情報公開に非常に積極的(報道資料全公開)
→筆者は、今回の件では北海道, 札幌市, 千葉県, 名古屋市, 和歌山県, 熊本市 あたりが当たるのではと思いました。
2. 症例情報を確実に公開、ページの構造化はされていないが情報公開に前向きな姿勢は伝わる(報道資料全公開)
3. テキストで記載 (ベタ打ち)
4. 症例情報は、上位の団体に任せ、リンクを貼る(市なら都道府県、都道府県なら厚生労働省
5. 自治体のサイトから症例の有無に関する記載を見つけることができない

理論上では差異があって当然なわけですが、こうやってまとめることで自治体ごとに具体的にどんな違いが起きるかということが分かって、私としても大変勉強になりました。


(3)「情報公開」と「オープンデータ化」は違う

上記を書き進めたところで、Breaking Newsが入ってきました。(3月2日18時)

さらに、新型コロナウイルス関連の情報をわかりやすく伝えるため、厚生労働省などのホームページを刷新し、内容も随時更新していることを紹介したうえで、引き続き迅速かつわかりやすく国民に伝えるよう、情報発信の強化に努めるよう求めました。

新型コロナウイルス 10日めどに第2弾の緊急対応策 政府 | NHKニュース

上記ニュースを見る限り情報公開については今後、とくに厚生労働省のページにおいては何らかのテコ入れがありそうです。

自治体間の「情報公開」格差を是正するためのフレームづくり

まず、(2)から繋がる話では「情報公開の環境整備を進めてほしい」ということになります。昨年の台風のときにも各自治体の情報公開格差が話題になったばかりですが、可能な限りで事前の準備もできると思います。自治体公式ページの雛形を作っておく、URLの構造化を行っておく、更新にあたる担当者を明確にしておくなどは、おそらく災害の種別を問いません。さらに、公開された情報へのフィードバック(苦情、意見)などをきちんとアーカイブし次の事例に活かすことも重要です。

「オープンデータ化」はその次のステップ

そこで、情報公開が広く普及してきたら、やっと「オープンデータ化」が望めます。 オープンデータというのはもちろん、広く一般に分かりやすく情報を公開することではありますが、その先には「データを入手しやすいこと」「意思決定の判断に使える内容であること」「第三者がそのデータを元に別のコンテンツを作りやすい構造であること」といった、「データ」に対する非常にユニバーサルな視点が求められます。公開して終わりではない、真の活用を理解する必要があります。研究的な意義だけでなく、経済的な視点、例えば小売業者やサービス業者がオープンデータを有効に活用している様々なシーンを想定することも必要です。

国内のオープンデータ事業にも既に多くの事例がある

日本でもオープンデータ化が確実に進んでいる分野はあります。情報公開の古参である総務省の「e-stat」は何度もの国勢調査を経てサイトのブラッシュアップを続けていますし、内閣府の「RESAS」もサイトやデータの更新を頑張っていると思います。GISユーザーとしては国土交通省の「国土数値情報」も外せません。また、地方自治体によっては、すでにGISほか様々なプラットフォームを通して多くの市政情報のオープンデータ化を実現している地域もあります。

行政側のコストや本来の目的を考えると、すべてのデータがRESASのようにグラフィカルでカラフル、「綺麗」に表現される必要はありません。しかしながら、厚生労働省が管轄する公衆衛生や労働環境の整備に関しては、こういったテクノロジーの恩恵を最も受ける分野だと思います。

それぞれの省庁が、それぞれの予算の中でこのような情報公開の取り組みを続けていること自体が知られ、その情報が活用されることが日常的になるところから、シビックテックの間口がより広くなるよう、私たちも積極的に事例を作っていく必要があると痛感しています。

さらに言えば、情報公開、オープンデータ化、ユニバーサルなサイトの構築などはまさに省庁横断的に求められる事業でもあります。現状の縦割り行政では難しいかもしれませんが、だからこそこれら「お役所公開データ」に関する問合せやフィードバックを一元的に受け付ける窓口がこの国にできたとしたら、それが「未来」そのものなのかもしれません。

参考

www.sbbit.jp

f:id:aimerci13:20200301210817p:plain

*1:レスポンシブの実現やボタンの配置などを最適化するため、別ページを作成しました。今までのURLでもアクセスできます。 https://jagjapan.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/641eba7fef234a47880e1e1dc4de85ce

*2:一例では、日本経済新聞社さん、Yahoo! JAPANさん、東洋経済新報社さん、スマートニュースさん、JX通信社さんなどが、新型コロナウイルスの感染状況を視覚化されています。