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記憶を記録 feat. 宇田川藍

COVID-19 国内症例マップ(ダッシュボード)を作成して考えたこと

※3/1追記。続編のようなものを書きました。
メディアの外側から COVID-19 国内症例マップ を発信する意味、シビックテック - Bi-Bo-6

 

私達で作成・更新を続けている、GISを用いた新型コロナウイルスダッシュボード(公開情報一元化)について、独立行政法人 国際感染症センターさんが、Facebookでシェアをしてくださいました。ありがとうございます。17日に公開したこのレイヤは、22日深夜までで70万viewになりました。

www.facebook.com

 

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都道府県別新型コロナウイルス感染症患者数マップ

そこで、このダッシュボード作成で感じたことを書いておこうと思います。(論文か?)

 

ダッシュボード本体

https://jagjapan.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/641eba7fef234a47880e1e1dc4de85ce

◯プレスリリース

jag-japan.com

 

 

◯数値をビジュアルに起こす難しさ

グラフの形態や表現の定義を変えることで、発信者は、視認性だけではなく、受け手が数値から得るインパクト(重大性)までもコントロールできてしまいます。ファクトとして数字やグラフを見ているつもりでも、その表現(視覚デザイン)によっては、感情の奥底を揺さぶったりインサイトを発見させること、あえてそれを狙うことだって可能な世界だと思います。

つまり、オピニオンを入れ込んでこういったマップを作ることもできますし、それを意図しない場合には、丁重に、主張をもつエレメントを避けていく必要もあるということです。

今回のエピデミック・マップのように、最高難度にセンシティブな地理情報(位置情報)を扱う場合には、発信者がこれを強く自覚してビジュアライズの要件を練る必要があると考えました。

 

主に検討したのは以下の点です。

(1)必要以上の「集計」を行わない

今回のダッシュボードでは、まず目につく左上の感染者数や発症例などの数値以外では、目立つ数字を置かないことを決めていました。ジョンズ・ホプキンス大学https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6)ほか諸外国でのGISダッシュボードを見ると、地域別に集計して降順のリストが作られていたり、数値自体もフォントサイズが大きくかなり目立つ構成になっていたりします。ですがこれらは広範な地域(国同士だったり、省単位のような広域)で感染者数を比較し評価していくための地図です。 私達のダッシュボードは、もちろん現在の合計値を表示することは必要条件ではありましたが、「推移」がしっかりと把握できる物にすべきだと構想段階から認識していました。都道府県別や男女別の集計と分布もグラフ化しますが、それらはメインではなく、あくまでもドリルダウンの入口として機能させたいと考えて分類を行ったものです。 

(2)情報の解像度を意識する(秘匿を設ける)

ここでいう解像度とは、個々の事例のどの部分を拾ってビジュアライズするかという定義の問題です。今回でいうと、各症例の公表資料には、基本的には「職業」や「行動経路」などの情報があります。ダッシュボードにはすべてのデータのソース(政府、厚労省もしくは自治体公表資料)へのリンクを貼っているので、もちろん知ろうと思えばそこへ飛ぶことで把握できますが、それらをダッシュボード上に反映させることはしていません。これは、「感染の時間的空間的広がり」を客観性を持って表現するためには、個別の情報(例外の集合)が却ってミスリードになってしまう懸念が大きいためです。感染の広がりについて、地理的プロセスやケースの連続性についての仮設をダッシュボード上で提示・展開することは今回の目的ではないため、グラフや地図への表現は割愛しています。

 

(3)図郭の占有率を考慮する

地図を使った統計情報の可視化で、日本人は、特に「都道府県別の色塗り」が好きなのではと感じます。何かと、色を塗って数値の高低差を表現したり、周りの都道府県(お国)と比較したくなったりするのではないでしょうか。 都道府県ごとの色塗りは見栄えも良いですし、多くの人にとって見慣れた図郭にもなります。資料作成時に「ちょっと地図を入れておこうか」といった場合にも、とても有効な手段だと思います。

実はここ数日、社内で毎日「都道府県ポリゴンで症例を集計し、Webマップに載せるべきではないか」と議論しています。そして毎日、却下となります。ほかの集計マップでは確かに都道府県単位で色塗りをしている場合もあります。ではなぜ、我々はボツにしてしまうのでしょうか。

まず、都道府県の面積は一定ではありません。日本地図で表現すると、北海道はより目立ちますし、沖縄県はより埋もれやすいです。色の濃さによっては、相対的に必要以上のインパクトを与えることがあります。また、都道府県の境界はあくまで行政上の区分であって、空間がそこで切れるわけではありません。今回に関しては、県境を一歩超えたから感染のリスクが上下するということはあり得ず、視覚化する際に行政界を区分に用いるのは、肌感覚に対して不適当だなと考えています。そこで、今回はポイントデータのプロットをヒートマップで表現する方法をとっています。空間的な分布を見るためには有効だと考えます。そして、(1)でも書いたように、都道府県ごとの症例数比較や上位下位といったものをメインには提示したくないのです。

(4)赤や黄色といった注意を引く色を多用しない

数値やグラフの色合いも考慮しました。グラフを跨いで意味が大きく変わってしまったり、拡大・縮小しても見やすさが変わらないようにと意識して、色や透過処理などの微調整を行っています。特に気をつけたのは、「死亡者数」の表示に赤色を使わないことです。他の要素で赤色を使っても、真紅は使いません。赤や黄色は注意を引き、緊急性や重大性を誇張しますが、今までに書いたように、センセーショナルに視覚化することや煽ることはゴールではないため、むしろ出来るだけそういった印象を与えないように、配慮しました。そしてまた、目に痛くない(目に優しい)ダッシュボードのほうが、モニタリングにおいては都合がよいという場合もあるかと思います。

(5)インタラクションを組み込む

これはGISOperations Dashboard for ArcGIS)の標準機能でまずはEsriさんに感謝しなくてはならないのですが、見て終わりではなく、手を動かして新しい知見(ドリルダウン)を引き出せるようにしようと考えました。マウスオーバーでポップアップが出たり、クリックでフィルターをかけたり、といった仕掛けです。特にポップアップ周りのの自由度の高さや拡張性は、GISお家芸と言えるかと思います。といっても今回はわずか1シートに収まる情報が対象で、ビッグデータと呼べるようなデータでもないですしドリルダウンの階層が複数あるわけでもありません。それでも、GISやBIツールに馴染みのない方にとっては、グラフをクリックして数値と地図の表示が変わる動き自体に、驚きや新鮮さを感じてくれることもあるのかなと期待しています。

(6)「Summary/Trend/Detail」が把握できるようにする

この表現は地図を見た方のコメントの受け売りで恐縮ですが、自分はほとんど無意識のうちにウィジェットのバランスを考えて配置していました。このコメントを受けて、「なるほど、自分はこの階層を意識してグラフを選んでいたのかな」と改めて理解することができました。画面左からサマリー→トレンド→ディティールという情報の配置も特に決め打ちだったわけでなく、受け手が左上から目線を動かしていったときに、違和感のないように展開していくことを考えて試行錯誤しておりました。このあたりの動線は、ダッシュボード内の「地図」の配置によっても大きく変わるものになりそうです。それと文字で表す情報量をコントロールしないと、見ている人は画面途中で疲れてしまって、結果一部の情報にしか触れてもらえないといったことにもなると考えています。

(7)GISSQLの癖を理解してデータを構築する

これは(2)とも関連しますが、ローデータから何を切り出し、一行ごとにレコード化するのか、という構造を練る必要があります。1レコードの定義で最初に失敗すると後からの方向転換は結構大変です。今回は2〜3パターンのテーブルをつくって、上記(1〜4)を視覚化するにあたって都合がよい構造を選びました。この分野に関しては自分もまだまだで、GISSQLの癖を理解して、「描きたい絵」から逆算してテーブルを組み立てるセンスは磨き続ける必要があると思っています。

(8)モバイルビューと英語版をリリースする

これは日本語デスクトップ版をリリースした翌日に取り掛かった作業です。データの価値、本来届くべき人を考えて、それぞれに最適化したダッシュボードを用意し、相互にリンクすることにしました。

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思いつく限りの「こだわり」はこんなところでしょうか。

私自身ばりばりの文系ですし、プログラマでもなく、「クラウドGIS」の使い手というのは、ゆるく「データベース+フロントエンド」という感じなのかもしれませんが、まだまだその知識は浅くて狭いことを痛感しています。

これからも色々な事象の地図化・可視化を通して、何らかの付加価値が生み出せるように精進したいと思います。