Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

☆脳に映る現代 - 養老孟司

脳に映る現代

脳に映る現代

「抽象的な概念は、すべて「目に見えない」。それは、そうした概念が、耳に聞こえず、鼻に臭わず、手に触れないことと、同じことである。なにもそこで、目だけを特別扱いすることはない。そうした概念は、脳の中では、目や耳や鼻といった、もろもろの感覚器に直接関連する部分ではなく、連合野と呼ばれる、それ以外の部分に位置するからこそ、われわれはそれを、「目に見えない」というのである。もちろんそれなら、「聞こえない」し、「臭わない」し、「触らない」と言ってもいい。」
「文字はことばに属し、したがって、耳と共有される。だから、文字は「読むこと」ができる。しかし、耳と共有されるには、「目だけが理解する」性質を失わなければならない。それが文字である。だから、文字は象徴化する。どんどん具像的な絵画から遠くなって、抽象的な図形となるのである。脳でいえば、それは目から遠くなることである。
 他方、絵画は、目から離れることはできない。絵画は、耳と共有される必要はない。したがって、絵画のなかには、目しか「読み取れない」ものが描かれる。耳に遠慮しない芸術、それが美術である。」
「したがって、脳で言えば、音楽は目に遠慮する必要のない芸術である。」
「二つの楕円が、一部重なって描かれる。重なった部分は言語であり、重ならない二つの部分はそれぞれ音楽であり、絵画である。それを、おそらく脳に張りつけることができる。〜「見えるもの」と「見えないもの」という話は、脳に関して煎じつめれば、目と耳の話になってしまう。」