Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

ザ・シティ・ダーク 眠らない惑星の夜を探して - イアン・チーニー監督

"The City Dark A Search for Night on a Planet that Never Sleeps"
http://www.thecitydark.com/


2011年/アメリカ/英語

街中に光が溢れる夜のニューヨーク。まるで24時間営業のように降り注ぐ人工の光。ふと空を見上げるとそこにはあるはずの星がない。人間が豊かな生活を送るために発明された“光”。その便利さとひきかえに夜から星空を奪ってしまった。そして変化は人間の歴史や動物の生態系にまで及ぼうとしている。眠らない 夜を過ごす人々。常に光を体に浴び続け、やがてその体は蝕ばまれていく。「The City Dark」は様々な専門家に取材をし、星空の大切さと人工の光が及ぼす問題について描いた、ドキュメンタリー映画
    ――http://www.timeout.jp/ja/tokyo/event/5582

街の夜景が好きで、田舎のまっくらが好き。
一面の星空に癒されながら、今日とあさってのことを考えよう。


前日深夜に東京シティビューを訪れていて、
なおかつシアターが渋谷で21時上映開始という、恐ろしいタイミングのもとに私の目の前にあらわれた作品。
自然科学が好きな人にはたまらない、多角的な視点に基づいたドキュメンタリー映画になっています。


まずはビジュアライズの話から。
アニメーションと音楽の調和がとても美しい。主題として光を扱うだけではなくて、映像表現という枠組みの中で生まれる「明暗」を丁寧にコントロールしています。観る側の「視覚」にもやさしいですし、その意味では芸術と科学、身体に境目はないのだなとあらためて感じさせられます。きっと自然科学に興味がなくても、たのしい作品だよ!
特に個人的には音楽が気に入りました。夜空の写真といっしょにね、夜空にぴったりなカントリーも流れる。真面目なドキュメンタリーの側面をもちながらも、どこか癒しを感じることのできる、居心地のよい87分間なんです。



本題。
話はとあるカメラマンの独白から始まります。
子どものころ見ていたあの星空が大好きなのに、800万人が行き交うNYではその光に触れることはできない。

暗闇を追い求める天文学者
人と光のつながりを説く歴史学者
生態系を壊す光害に警鐘を鳴らす生物学者、
治安維持における光の重要性を語る犯罪学者、
光りに包まれた昼夜逆転生活が病気のリスクを高めたと証明する実験…

様々な語り手が「光」と「暗闇」それぞれの必要性を訴えかけます。
どれも具体的な事例に基づいたケーススタディなのでとてもわかりやすい。

個人的に気に入ったのは
・孵化した子ウミガメが海へ帰るとき頼りにするのは光であると遺伝子に刻まれていること、
 それは星空が水を照らして明るくなるという理由があること、
 そしてこの100年で急速に発展したフロリダでは、海に帰れないウミガメがたくさんいるという現実。
メラトニンは体内リズムと密接に関わっており、例えば女性なら乳がん、男性なら前立腺がんの発症リスクへと影響する。
 光を浴びることで生成される量が変わるため、夜間勤務者などは影響を受けやすく、実際に免疫力が低下していた。
・一方で光は文明の進歩を表すメジャーとなりうる。人間は長い間夜の闇に怯え、それを支配しようとしてきた。富の象徴でもある。
これらの論点でした。

光と暗闇の必要性を、ごく客観的に見つめていこうとする強い姿勢を感じます。
「暗闇を失うということは私たちと宇宙の架け橋を失うということなのだ」「たとえばもし星空を正確に把握していなかったら、私たちは太陽系の中心は地球であることに疑問を持たなかっただろう。間違った科学を信じることはとても恐ろしい」「私たちは宇宙の中でこの地球しかコントロールすることができない」

ですがこれらの言説は日本語と非常に相性が悪いといえます。「なにが正しい科学であるか判断することはできないし、それが間違っていることで何が問題あるの?」ときっとつっこまれるでしょう。大前提、絶対善としての「真実」「正しさ」という核心の部分に対する価値の置き方が、日本の文化では独特なのかなと感じます。それは悪いことではなくて、例えば八百万の神とか和洋折衷とか、柔軟で何かを決めつけない穏やかな精神性のひとつとも言えるでしょう。(まあ日本に限らないよね。アジア圏の価値判断はイコールで中華思想に遷移されちゃうのかなーっていう話でもあってまた別の主題になっていくんだろうけど。)

今回のインタビュー対象はほとんどが特定の分野での研究者などであり、自然科学を生業に生活している人たちでした。
その点では、やはり高レイヤーな人たち向けという印象は拭えません。犯罪者対策では街灯設置が効果的であるというパートがありましたが、その他にも夜間勤務という労働形態が社会に必要とされている現状や、光に関係する仕事・業務(たとえば途上国でのインフラ整備など)にどれほどのニーズや市場規模があるかなどへの言及もありませんでした。今回はアメリカを中心とした先進国が、どう自然と向き合っていくか共生社会を作っていくかが主な主題になっていたのは否めませんし、世界を単一に見つめることが不可能であると理解していくしかありません。



私はこの上なく夜景が好きで、それは幼い頃から観光地へ行くと親がよく眺めの良い場所に連れていってくれた思い出があるからです。
ロンドンや香港、シンガポールに上海、台北と私の意思で旅をするようになってからも高いところには自分から足を運んで、空から見える街並みに思いを馳せる時間を作ります。長崎や函館の夜景も美しかった。

そこにはやっぱり「光=人の営みの美しさ」みたいなものを感じるアンテナが強くはたらいているから。
エンパイアステートビルの展望室に行ったときは感動で涙が止まらなかったほど。
都会が人の可能性を開花させる場所である限り、私はきっと夜景も街のきらきらもずっと好きなんだろう。

身体にとって、健康にとって、豊かな精神にとって、その光に年中包まれていることが決して幸せではないことも、感じています。
寝るときまぶたに光があたっているのがすごく苦手で、豆電球も好きじゃない。だから最近はよくアイマスク使ったりして。
キャンドルの炎もいいよね。ゆらぎが空気と風の存在を感じさせる。決して人工的じゃない、動き。


光とどう向き合っていくか、暗闇をどこまで受け入れるかは私たちの自身の問題だと考えさせられます。毎日関わっていくことだしね。
11日はお盆っていうこともあってか帰りに渋谷の駅前に出ても心なしか華やかさおさえめだったなー。*