Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

ヒアアフター - クリント・イーストウッド監督

"Hereafter"

2010年/アメリカ/英語


出演
セシル・ドゥ・フランスマット・デイモン


"死"をえがく作品。
日本では2011/2/19に公開されましたが3/11に東日本大震災が起きてしまったことにより公開中止になりました。なぜなら大きな「津波」が物語のキーになっているからです。ちょっとした運命的なものも感じさせる映画です。


クリント・イーストウッド監督といえば「硫黄島からの手紙とかインビクタスとかを撮ったおじさま」というイメージで、恥ずかしながらようやく、初めて作品を鑑賞することができました。最近は年1本ペースで撮影していると知ってその精力的な活動に驚きましたが、監督歴も70年代からと長いし、特典映像なんかで語る俳優さんたちの評判もすばらしく、アメリカの映画界になくてはならない存在なのだと思います。

"I love the way to tell story, I love that he is a storyteller more than anything."
"Story is the king. "

上記は出演した女優さん、下はイーストウッドさんの発言ですが、映画を観て大きく納得です。



★---
「独特な空気」といえば良いのだろうか。
そして、最後の15分にすべてが詰まっているといってもいい。そのシーンのためにでも鑑賞する意味がある。


徹底的に現実的な画を撮っているのに、ファンタジーだなって思った。
単純に、「死後の世界との対話」というテーマからしてすでに非科学的ではある。だからそう感じたのかもしれない…
けれども、この映画のすごいところは、科学的だとか、あり得ない描写だとか、そういった揶揄さえも
吹き飛ばしてしまうほどの骨太なストーリーに支えられているというところだ。
そのストーリーが、「人にとって都合のよい、やわらかな感触」だった。落ち着いた気持ちになるような。
たぶんその「救済」っぷりに多少のファンタジーを感じたのだと思う。*1
観終わったあとおもわず「死後って…最近あんまり考えたことなかったな」って思うような。
せわしない日常から一歩離れて、生や死について思いを馳せるひとときをもたらしてくれる作品。


3.11がやってきて、あのとき私も「死」とか「失うこと」について考えていた。
いっぱい物にかこまれていても、もはや意味ないんじゃないかって思ったし、豊かさとか、
それでも回っていく東京って都会のたのしさとかなしさを痛いほど感じていた。


それでも、今回の映画の映画のテーマは「喪失」ではない。
上記に「救済」と述べたように、むしろその逆のような気がした。「残された私たちは、彼らから何を得ることができるのか」。
マーカスが兄に「ひとり立ちするんだ」と背中を押されるシーンは
「死は失うことだけじゃない」ということを暗喩しているように思う。
「見守っているから、安心して」という表現は日本の「ご先祖様へのお墓参り」に通じる感覚でもある。
たとえ死んでしまったとしても、誰かの心に強く刻まれたメッセージを残せたなら…そこに生の意味はあったのだと思う。


似て異なる作品として、『ブルーバレンタイン』をあげたい。
こちらはまさに「喪失」を描く作品。人ではなく「愛」だけれど。
本当に救いようのない物語で、観たあとは男女関係にちょっとナーバスになるくらい。
目の前にいるのに、救われなかったこちらのお話と、
もはや目の前にいない人々に救われるお話、この対比はユニーク。
結論を言えばどちらも、「主観と主観の折り合い」である。
悲劇的な選択をした『ブルーバレンタイン』と、魂の救済を選択した『ヒアアフター』。


ただ、死者と対話することが最大の答えになってしまった作品として、(チート的)
現代の技術ではそのようなことはまったく不可能だから…救いがあるようで、最終的にはない。
作中で描かれる世界は暖かな光に包まれファンタジックである。彼らは救われた。
しかし現実に立ち返った際、私たちが亡くしてしまった大切な人たちに出会うことができるわけでもない。
ジョージはいない。


##
3人の演技が素晴らしかった。
特にマーカスは、ずっと無口な少年だったがゆえに、ジェイソンと話したときの涙にやられてしまった。
クールで冷めているような彼の心が溶けた瞬間を観るだけでも、この作品に触れる価値があるように思える。
そして直後のシーン、お母さんと対面して再会の歓びを分かち合う場面でふと思い出す。「ああ、彼にはお母さんがいるじゃないか」。


兄を求めて心霊センターにおもむき、うさんくさい女性カウンセラーからの「診断」と「対話」を描く描写はこの映画に不可欠な要素だった。
鑑賞者はやっぱりまだ心のどこかに「霊なんて」という疑念を抱いているし、その思いを昇華してくれたシーンのように思う。


##
津波の描写がすごい!とてもリアルで痛々しい。やはりこのタイミングで震災があったことも考慮すると、こわすぎて語れないほどのインパクトを持っている。…という意味で、映像のレベルも非常に高い。ロンドンの地下鉄テロもすごい描写。
まったくCG的なぎこちなさを感じないグラフィックで、見ているこっちが「えっ。もしかして本当じゃない?」と思ってしまうほど。
そういった視覚的なリアリティの上に、尋常ではないストーリーが乗っかる。おそろしいコラボレーションだった。



そういえばおととし日本で大ヒットした「おくりびと」はどんな作品なんだろう。*

*1:あとはジョージの能力の描写くらいかな。