Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

☆日本人の身体観 - 養老孟司

日本人の身体観 (日経ビジネス人文庫)

日本人の身体観 (日経ビジネス人文庫)

「我々が理解している呼吸、循環といった機能の働きは、別な形で部分的に見えている場合もありますが、呼吸なら呼吸そのものは目に見える物ではなく、言わば一つの概念といえます。こうした生物学的な機能の特徴は、言葉を変えれば時間を含んでいるということです。これに対して解剖学で扱う対象は、写真に撮ることも絵に描くこともできる物で、一度絵に描いた物はある意味では永遠に残るし、あるいは単に瞬間の像を示すだけとも言え、時間は含まれておりません。」
「我々の目に見えない働きに類するものに何らかの価値を置くことによって「神」や「気」の意識が生じてきます。」
「神や気が宿らないものは空の器」

「江戸という時代にも当然ある種の思想があったのは事実です。しかし、それを思想とは呼ばない習慣が日本にあったのではないかと私は思っています。蘇峰の著書を読んでみても、政治思想に相当するものが思想であるとする考え方、観念あるいは感情ともいうべきものがあったと思います。この場合の思想とはある種の定義を伴なう、いわばカッコつきの思想を指します。しかし、我々の日常茶飯事を律しているものも思想であると考えますと、日本にも当然思想があるわけで、それが江戸では何であったかと言えば、根本的には神気を中心とする思想であったと思います。言い替えれば、江戸の人たちが「心」をいかに重視し、それに価値を置いていたかということは、我々の社会がその伝統の中にどっぷりとつかっていることを考えるとよく分かります。」