Bi-Bo-6

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記憶を記録 feat. 宇田川藍

SALUS June 2013 vol.148 「地元愛にあふれたフランス菓子の新星」

  • Patisserie francaise OCTOBRE

 茶沢通りから少し奥へ入った完全なる住宅地。三軒茶屋界隈に住んでいる人でも、容易には気づかない場所にこの4月オープンしたのが、「パティスリー・オクトーブル」だ。オーナーシェフの神田智興さんは、このすぐそばの中学校に通ったという地元っ子。実はこの店は、シェフの父上が以前営んでいた鉄工所を改装して造られた。
 神田シェフの経歴を紐解くと、ルコントを筆頭に、ノリエット、マルメゾンを経て、渡仏。パリのローラン・デュシェーヌ、ジェラール・ミュロ、ピエール・エルメなど、錚々たる店で修業を積んできた。華々しく繁華街に店を出してもよさそうに思えるのだが、「最初から生まれ育ったこの街でやろうと思っていました。この街のケーキ屋として、大きくせずにじっくりやっていきたいですね。」と本人はあくまでも謙虚。そもそも神田シェフは出だしからちょっと変わっている。もともと工学部出身で、大学卒業後は建築系の会社に就職。建築の現場でさまざまな職人に出会ううち「職人っていいなあ」と憧れを抱く。そして、たまたま見かけた求人広告で、ルコント氏がコンフィチュールを作っている写真を見て「かっこいい」と、何の経験もないまま応募した。本人も、何も知らなかったからこそ飛び込めたと笑う。何もかもすべてが初めて、先輩は年下ばかりだったが「運がよかったんですね。先輩たちがよくしてくれたから続いたんだと思います」と神田シェフ。だが、シェフの物腰や謙虚な態度を見ると、運だけではなかったのだろうと思える。