Bi-Bo-6

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記憶を記録 feat. 宇田川藍

ベロニカは死ぬことにした - パウロ・コエーリョ

ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)

ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)

読みはじめ、「やっぱりタイトルがアレなだけあって、コメディなのかな…」と思っていたら
冷静な語り口調がやがれは荒れ狂いだす、ラテン系精神世界小説でした。

ベロニカ24歳。わたし23歳。奇遇です。

p.15 全く見当もつかなかった。でも、誰もが抱いていた疑問への答えを、もうすぐ知ることになるかもしれないことが嬉しかった。神はいるのだろうか、という疑問に。多くの人と違って、それは彼女の人生にとって大きな関心事ではなかった。かつての共産党政権の下、学校では、人生は死で終わるとされ、彼女もその考えに慣れていた。逆に、彼女の両親と祖父母の世代は、教会へ通い、祈りを捧げたり、巡礼に出かけたりしていて、神が彼らの声を聞いていると信じ切っていた。二十四歳で体験し得ることは全て体験して(それも容易なことではなかったが)、ベロニカは、全てが死で終わると信じていた。だから彼女は自殺を選んだ。ついに自由の身になるために。永遠の忘却だ。でも心の奥底には、まだ疑念が残っていた。神がもし本当に存在したら?何千年という文明は、自殺をタブーとし、全ての宗教体系への侮辱とみなした。人は生きるために闘う。ひれ伏すためではなく。人類は子孫を残さなければならない。社会は労働者を必要としている。カップルには、愛が死んでからも、一緒にいる理由が必要で、国には、兵隊と政治家と芸術家が必要だ。

p.80 「そうよ。今度は、もう物語ではぐらかさないわ。狂気とはね、自分の考えを伝える力がないことよ。まるで外国にいて、周りで起こっていることは全て見えるし、理解もできるのに、みんなが話してる言葉が分からないから、知りたいことを説明することもできず、助けを乞うこともできないようなものよ」

p.112 憂鬱による中毒の一番大きな問題は、嫌悪、愛、絶望、興奮、好奇心といった情熱が、自己主張しなくなることだ。しばらくすると、憂鬱になった人は全く欲望を感じなくなる。彼らは生きる意志にも死ぬ意志にも欠けていて、それが問題だった。


だから憂鬱に毒された人たちは、生にも死にも恐怖を感じないという理由から、英雄や狂人を、長年興味の対象としてきた。英雄も狂人も、危険を顧みず、人の言うことも聞かずに前へ突き進む。狂人は自殺し、英雄はある使命のために身を捧げるが、双方とも死んでしまうわけで、憂鬱に毒された人たちはたくさんの夜と昼を、不条理さと栄光について話すことになる。憂鬱な人が、外の世界を覗き見るために防護壁をよじ登るのはその溶きだけだが、彼の手足はすぐに疲れて、また日常の世界に戻ってしまう。

p.151 「いつだってきみは一生懸命働いてきたし、やりたいことを選ぶ権利はあるよ」と彼はその声に何の憎しみも込めずに言った。「でも、こういう時には、仕事が一番のセラピーなんだ。旅行して、世界を見て、自分が役に立つと思うところならどこへでも行けばいいんだ。でも、オフィスのドアはいつだって開いているよ。君が戻ってくるのを待ってるから」それを聞いた時、マリーは涙に噎せてしまった。優秀な弁護士らしく、彼は何も聞かなかった。どんな質問よりも、沈黙の方が返事をもらえる確率が高いことを彼は知っていた。

p.180 誰もが、何事に対しても自分の理論を持っていて、自分の真実だけが大事だと信じていた。彼らは昼も夜も、何週間も、何年間も話し続けた。よくも悪くも、アイデアというものは、誰かが実践して初めて存在し得るものだという事実を永遠に受け入れることもなく。

p.217 外交は、待ちの技術であると同時に、どんな状況でも表向きの普通さを保っておかなければならない技術でもあるから。

p.230 「聞いてよ、ぼくは二人を、何よりも、世界の誰よりも愛してるよ」
大使は咳払いした。彼はそんな直接的な愛情表現に慣れていなかった。
「それなら、わたしたちへの愛のために、頼むから、おまえの母さんの望むようにしてくれ。しばらく絵を描くのはやめて、おまえと同じ社会階級の友だちとつきあって、また学業に戻るんだ」
「父さんはぼくを愛してるんだろ。なら、そんなことは言わないでくれよ。自分が大切にしてることのために闘って、いつもぼくのいい模範となってきたんだから。なのに、自分の意志もない男になれだなんて言わないでくれよ」
「わたしは愛のために、って言ったんだ。そんなことは今まで口にしたこともないが、今まさにおまえに頼んでるんだ。おまえのわたしたちへの愛のために、わたしたちのおまえへの愛のためにも、帰ってきてくれ。物理的な意味だけじゃなく、本当に帰ってきてくれ。おまえは自分に嘘をついて、現実から逃げてるんだ。〜略〜」

p.232 夕食の時、彼は両親に、彼らの方が正しかったようだと言った。ただの若者の夢に過ぎなかった。絵への興奮はもう冷めたと。両親は喜び、母親は泣いて、息子を抱きしめると、全てが普通に戻っていった。その夜、大使は、密かに自分の勝利を記念して、一人でシャンパンを開けて飲んだ。それからベッドに入ると、妻は数年ぶりに、すでに静かに眠っていた。
 次の日、彼らはエドアードの部屋がひどく散らかっているのを見つけた。絵は切り裂かれ、息子は空を見上げて隅の方に座っていた。母親は彼を抱きしめて、どれだけ彼を愛しているか告げたが、エドアードは何の反応も見せなかった。
 彼はもう愛とは関わりあいたくなかった。もうどうでもよかった。容易く諦めて、父親のアドバイスに従えると思ったのだが、その作品に入り込みすぎていた。人を夢から隔てている深い裂け目を渡ってしまっていたから、戻ることはできなくなっていた。
 もう前にも後ろにも身動きがとれなくなっていた。いっそ幕を引いてしまうほうが簡単だった。