Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

アイズ・ワイド・シャット - スタンリー・キューブリック監督

アイズ ワイド シャット [DVD]

アイズ ワイド シャット [DVD]

1999年/アメリカ/英語


出演
トム・クルーズニコール・キッドマン


キューブリック監督の遺作であり、私生活でも夫婦だったトム・クルーズニコール・キッドマンの共演!


ミステリアスだけどいい話っぽい。いい話というかシニカルというか。
時計じかけの〜では「暴力」だったけど、今回は「性」が主題なのかなと感じる。
話自体は3日間くらいの出来事でしかなくて、ちょっとしたリアルタイム感もあり。


BGMのピアノも不安感を煽っていい感じです。


★---


トム・クルーズって表情の引き出しがそんなに多いとは思ってないけど、今回は「誠実であろうとするお医者さん」っていうのがすごく伝わってきて、やっぱりすごい俳優さんっていうのは一挙一動に嘘がないんだなあと思ったり。ドミノと会った後、「ちゃんとおうちに帰るんだ!?」って思ってすごくうれしかった。(実際にはまた違う展開になるけど)
ニック・ナイチンゲールは名前も演技もうさんくさくてすばらしかった。パーティー主催してるおじさんも。
「あのパーティー一連って全部やらせなのかな?」「なにもない平凡な生活が一番」「でも、この世にも扉を開けたら別世界が広がってるかも」そんな日常とファンタジーの狭間を楽しむ作品だと思う。何よりも舞台がNYなのに撮影がすべてロンドンで行われたっていうのが巧妙!


ブルーバレンタイン」は救いようのない話で、観終わった後にすごい喪失感の残る映画だったけど、
今回の作品って、観ながら頭が混乱しつつもビルの誠実さや真面目さが重要なコンパスのようになっていたと思う。
ビルが冷静に物事を受け止めようとしている限り、私たちも彼に移入できるし安心して観賞出来るんだと思う。
そのバランスが壊れると「ビューティフル・マインド」みたいな大変なことになる。


だけどあんなふうに人の裸を見続けるとなんか食傷気味というか、もうただの「造形美」って感じがする。
それでもやっぱり人は美しいものを求めるんだろうなあとか、そんなことを思った映画でした。
時計じかけの方がよっぽど絵的にセンセーショナルだったせいか、刺激的な画面にもずいぶんと抗体がついてしまった気もする。
酒池肉林って言葉を映像にされるとあんな感じなのかも。

キューブリックの映画を表面に見えるものだけで安易に批評しているのを見るにつけ、それがプロによるものであれアマチュア評論家によるものであれ、うんざりさせられます。


慣れないものを見て、それのみに惑わされる気持ちはわかりますが、この映画はセックス・シーンのみであるわけではないし(実際は全体のほんの数パーセント。客観的に見ましょう)、また夫婦間の性がテーマというわけでもないと思います。どちらかというとテーマは「タブー」と「それを犯してしまう人間」であって、現代社会では性がその最たるものとされているから、勢い映画の中の大きな要素になっちゃうわけだと思います。


他にも、性行為直前に男が口を滑らせるジェンダーに関する禁句、他人の秘密を漏らす、または聞きたがるというタブー、一介の医者には及びもつかない超大金持ち・上流階級への越権行為というタブー、金のために自分や娘を売るというタブーとそれを買うタブー、そして殺人というタブー・・・あなたは映画の中にいくつの「タブー」を見つけられますか?


原作はSchnitzlerの"Dream Story"、「目を大きく閉じて」みる夢、つまりフロイト的には「抑えられた欲望=タブー」なのです。


蛇足ですが、DVDのオマケである「キッドマン(父親がやはり心理学者です)、キューブリックについて語る」を見ましょう。キューブリックがいかに芸術性の高い映画を作り、後世に影響を与えるような良質な物語を作ることに人生をかけていたかを語っており、本当に感動的です。
  ――This film deserves more.

わざと娘に売春させるおじさん、ホテルのフロントにいたゲイ…そうやってみるとあらゆるところに!!って思ってこのレビュー目からうろこでした。