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日常のあれこれ

ミュージアムが都市を再生する 経営と評価の実践 - 上山信一 稲葉郁子

ミュージアムが都市を再生する

ミュージアムが都市を再生する

創造都市の具体的な姿

①これからの都市の繁栄を支えるのは、ハイテクもしくはハイタッチなサービス産業である。前者の典型はコンピューターソフトの開発者、医師、エンジニア、公社の典型はセラピストやアーティスト、デザイナー、シェフなどだ。
②これらのハイテクもしくはハイタッチなサービス産業の成否は、才能ある人材の確保、そして彼らがいきいきと仕事のできる生活の質が確保できるかどうかにかかっている。
③彼らは、センスのよいライフスタイルにこだわる。音楽や映画、芸術鑑賞などに時間を費やす。また、洗練されたファッション、デザインのすぐれた家具、おしゃれなレストランなど、ハイライフ型の消費サービスのできる街に住みたがる。彼らは一般的に所得が高く、消費の余力がある。また、そうしたハイセンスの消費を通じて感性を磨き、才能の枯渇を防ぐのである。
④したがって、才能のある人材に依存する産業は、文化的な刺激に満ちた街に立地しなければならない。彼らが創造性を発揮できる条件を備えた街、それが創造都市である。

ハイテク系の人材:お金を使う側。文化施設に寄付をし、消費施設で飲食や買い物を楽しむ。彼らにとって、このような消費はいわゆる余暇を超えた存在だ。仕事の疲れを癒すだけでなく、むしろそこからインスピレーションと仕事のヒントを得る。
ハイタッチ人材:文化施設や消費施設に表現の場を求める。ハイテク人材から評価されることで創作意欲を駆き立てられる。
→間接的ではあるがハイテク人材とハイタッチ人材の間のパトロン関係が成立する。


ブランド・マネジメント戦略を積極的に展開するMoMA
ビジネスモデルを追求するグッゲンハイム美術館
圧倒的な会員組織を誇るメトロポリタン美術館

ブルックリン美術館

毎月最初の土曜日の午後五時から午後十一時までを無料で開放している。これは「First Saturday Program」といわれ、全米中で他に例がない。この時間は、通常の展覧会スペースや映画はもとより、レクチャーやワークショップ、子供のための催しなどの企画もすべて無料となる。〜九時から十一時はダンスパーティーでバンドやDJが入る。


米国のミュージアムには学芸員と事務スタッフだけでなく、経営、マーケティング、広報、資金調達、教育や環境などの専門家がいる。企業や他の文化施設非営利団体との間での人の移動も活発である。

メトロポリタン美術館

基金も土地・建物もコレクションもない状態からスタートした。
委員会は、まず市に土地と建物を提供するよう訴えた。コレクションと運営については市民団体が責任をもつのでシの醤油うちに建物を建て市が管理維持をしてほしいと要請した。
さらに、コレクションの収集など設立費用を捻出するための募金が行われた。
一般市民も1ドル2ドルからの募金に協力し美術品の購入が始まった。


ニューヨークをはじめ米国のミュージアムの経営形態は基本的にはNPO法人である。収入源は、事業収入、個人や財団からの寄付、企業の協賛、連邦政府や州・市など公共セクターからの助成など多岐にわたる。その割合は規模、組織によっても異なるが、全体に事業収入と民間からの寄付の割合が高く、公的助成は約一割にとどまる。
ニューヨーク市はユニークな仕組みを取っている。市が土地と建物を所有し、施設の管理運営費の一部を負担する一方で、民間の運営主体がコレクションを所有し、施設を運営するという経営形態(公設民営)である。これらの文化施設はCIG(Cultural Instituions Groups<文化施設グループ>)と呼ばれる。


メトロポリタン美術館のフィリップ・ド・モンテベロ館長「病院は傷ついた身体を治し、美術館は魂を癒す」


「私たちの館は、単なる科学技術の展示場ではありません。家族がそろって楽しめる思い出づくりの場所なのです。」

ブルックリン美術館におけるミッション・ステートメントの移り変わり

①モノからヒトへの主役のシフト
②提供者側の発想ではなく受益者側の発想から自らの役割を考え直すという役割転換
③ミュージアムをコレクションと利用者の出会いの場、つまり人々が参画して築いていくソフト作りの場としている点


「日本では「教育」という言葉自体に、教える方から教えられる側への上から下への流れがある。しかし米国でのミュージアム・エデュケーションのプログラムでは、参加者と案内役は対等である。参加者が子供であっても、本人の見方を尊重し、独自の鑑賞、考えを引き出す双方向のコミュニケーションを心がける。」

美術館の建築様式の変遷

18C後半〜20C前半"新古典派"「宮殿の延長」「神殿様式」「国家や都市の威信の象徴」
例:大英博物館(ロンドン)・メトロポリタン美術館(ニューヨーク)・ナショナル・ギャラリー(ワシントンD.C.
1930年代〜"モダニズム"「内側は「ホワイトキューブ」と呼ばれる展示空間」「主役は芸術作品」「建物は無機質であるべき」
例:ニューヨーク近代美術館MoMA)など多数
1960年代〜"自己主張する建物"「建物も芸術品」「美術館はその土地と無縁ではなく、「サイト・スペシフィック」な存在」
例:グッゲンハイム美術館(ニューヨーク、ビルバオ)・ポンピドゥーセンター(パリ)・奈義町現代美術館(岡山県



トクヴィル「米国人はすぐに数人がグループをつくり、運動を始める。この小さな集団形成こそが民主主義を育む土壌だ」


ミュージアムは極めてユニークだ。何しろ、"本物"をそのまま見せる。個々の利用者が実物と対峙し、直接何かを感じることができるのである。もちろん企画テーマや展示の構成、解説パネルなどには学芸員のメッセージが込められている。展示には彼らの解釈も反映される。しかし、解釈の主体性は受け手側にある。送り手が加工した二次情報、三次情報に振り回されるリスクは少ない。ヴァーチャルな体験でもない。ミュージアムの「実物主義」はシンプルであるがゆえに、底知れぬ可能性を秘めている。


価値ある文化財や知的財産を収集、研究、公開し、公共の財産として保管するミュージアムは、民主主義を支える装置のひとつと考えられている。
http://twitter.com/#!/aimerci/status/26635201915

日本のミュージアム離れの原因

①子供の数が減少している。動物園や水族館をはじめミュージアムは、子供や家族連れに依存する度合いが高い。
②誰でも海外に気軽に行けるようになった。日本のミュージアムは間接的にせよ、ルーヴルや大英博物館など世界の一流ミュージアムと競争する時代に入った。
③交通手段の発達とデフレで、国内旅行は日帰り化が進む。これまでは一日目は史跡や名所、二日目にミュージアムというものが多かった。だが、日帰り旅行になるとミュージアムがリストから削られやすい。
④人々の節約志向も原因として挙げられる。デフレの中でもミュージアムの入場料はあまり変わらない。相対的に割高感がある。
⑤集客力のある大型企画展が減り、新規の利用者を引き付けられなくなっている、かつ、大量集客を狙った大型企画展が飽きられてきた。

ミュージアムの経営

レベル1:オペレーション……現場の作業・業務手順の効率運用
レベル2:マネジメント……館の持つ潜在価値を最大限に活かすための各種戦略の発動
レベル3:ガバナンス……経営の健全性、安定化を確立するための仕組み。企業や行政との連携。対外コミュニケーションのあり方を含む
レベル4:社会体制……ミュージアムの存立基盤としての資金、土地、建物、人材、ボランティアなどの資源供給、そして外部経済効果の還流のメカニズムの構築


日本博物館協会が行ったある調査では、回答した1891館のうちの六割が「行政に理解されていない」と自覚していることがわかった。」
「財源はできるだけ多様化させる。特定の個人、企業、あるいは政府に依存し過ぎない。経営方針への介入を防ぐためだ。また、いろいろなところから少しずつもらうほうが、リスクは分散でき、全体の総額も増える。政治からの圧力などを受けたときも、支持層の広さをアピールし、攻撃をかわせる。」

「戦略計画」(strategic planning):スポンサーに対する説明責任を果たすために。「ex.ニューオリンズ・ジャズ国立歴史公園」の戦略計画から抜粋

「使命」(mission):その施設は何のためにあるのか。ニューオリンズにおけるジャズの価値観を伝承し保存する」
「戦略目標」(strategic goals):上記を達成するために満たすべきこと。「資産の保存」「来園者の体験」「組織の活性化」「運営体系の整備」
「達成目標」(objectives):それを達成するための目標が、枝葉でぶら下がる。「利用者一人ひとりが施設の重要性を理解する」
「業績指数」(performance measures):具体的な目標数「教育プログラムに参加した生徒の70%以上が登園の文化遺産のことを理解している」


東京都の設置した江戸東京博物館の評価表
「事業目標の達成度」「効率性」「必要性」「公平性」

New Public Management

①顧客志向&成果主義
 そもそも何のため、そしてだれのために仕事があるのかを見直す。細かい規則や制度にとらわれず、誰が「顧客」か、何が「成果」なのかを問い直す。
②現場主義
 現場に権限を移譲する。現場で課題を洗い出し、現場で目標を立てる方が、質の高い経営ができる。現場を信じ、任せてみることだ。達成度はまず当事者が自ら測定し、そのうえで第三者が関与すべきだ。なぜなら、実態を変えるのは現場の当事者だからである。
③情報公開
 行政機関には競争がない。競争のないところに切磋琢磨や創意工夫はない。そっこで競争の代わりに何でも情報公開し、そしてだれにもわかる目標の設定と達成度の測定をする。

SWOT分析

Strength(当館の強み)
Weakness(弱み)
Opportunity(成長の機会)
Threat(脅威)

ミュージアム・リテラシーの開拓

  • 人が集まり創造する場
  • 都市のフラッグシップ施設
  • 外部経済効果
  • 既存施設の最大活用
  • コレクションと人材のポータビリティに着目
  • 芸術鑑賞以外での使い方
  • 地域変革の触媒機能