Bi-Bo-6

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記憶を記録 feat. 宇田川藍

伊坂幸太郎

  • 読みやすい小説を目指す

 分かりやすくて、味があるのが、僕の理想とする文章です――文字で表現される小説というフィクションを、"誰でもが読めるように、分かりやすく書く"というのが氏の持論である。
「もちろん僕の味も出したい。僕の場合、味というは、単にシンプルなこと、読者に面白いと感じてもらえるかどうか、ということに尽きると思います。」
 伊坂氏の小説は、軽妙な会話と精緻な構成が特徴だ。そして、全体に流れる、そこはかとないやさしさとユーモア。そんな彼の小説、「誰も見たことの無い架空の世界を、どうしたら本当っぽく思ってもらえるか。」に神経を注ぐ一方で、「実はいつも僕の物語の芯(テーマ)は、極めてシンプルで、真面目で、当たり前の、まっとうなことばかり」なのだと告白する。
 まずは照れ隠しに面白い話で覆い、ユーモアでくるんでしまうという伊坂氏。
「だって、説教くさいのは、誰でも嫌いだと思います。絶えず意識して注意してることは、フィクションはメッセージじゃないということです。あくまで物語は物語であり、せいぜい例え話。つまり、僕はメッセージを伝えるために書いてるんじゃない。その物語全体から読者が感じとってくれたものを、小説家としての僕は、一番大切にしたいと思っています。」

  • フィクションには不思議な力

フィクションはメッセージではないという伊坂氏、では彼のフィクションとはどういうものなのだろうか。
「当たり前ですが、フィクションである以上、それは現実とは違う世界です。しかしフィクションには、小説に限らず、"自分はそこで表現されている世界に一度行ってきたのだから、なんだか分からないけれど、まだ現実の世界をがんばってみよう"って気にさせてくれる不思議な力があると思っています。僕の小説を読んでも、特に学べること無いはずだし、ためにもならないと思うけれど(笑)。読んでいいただいた後、そういう気持ちになってくれたらいいな、とは思います。別に、感動までしてくれなくてもいいですから(笑)。」

  • 理想の上司

伊坂氏は会社員として7年の経験を持つ。伊坂氏はその時の経験からこう語る。「上司も自分も同じ人間。経験など、確かに自分より優れてる部分を多いだろうが、所詮、自分と同じ一回目の人生を生きているわけだから、自分と同じように正解を知っているわけではないはず」と。だから、お互いの信頼関係が何よりも大切、"この人を信じてやっていきたい"と思えるかどうかだという。そんな伊坂氏が、当時、大好きだったというある社長のことを話してくれた。
「その社長はすごく不思議で、変な人でした。自慢話とか、威張ったりしない人。どんな人にも偉そうにせず、みんなに同じように接してくれた。礼儀も踏まえていて、周りの誰もに感謝を忘れない人でした。"貫禄"っていうか、一緒にいて安心感のある人でしたね」
 当時から小説と会社の二足のわらじを履いていた伊坂氏に対して、自分の人生だからと、小説に挑戦し続けるようアドバイスもくれたという。
「"いつか君が作家になって本が出版できたら、東京で100冊買って、売り上げに貢献してやるからな"と励ましてくれましたが、実際に出たら、"タダで1冊分けてくれない"と平気で言う人です。でもそういうところも好きですね(笑)」
「叱ることは本当に難しくて、技術が要る」という伊坂氏。誰でも叱られた相手に対して嫌な気持ちを持ってしまいがち。伊坂氏も職場の上司から叱られて、正直、嫌に思ったこともあったそうだ。
「でも皆が緊張感を保ちつつも、和気あいあいと働けるためには、やっぱり上司は部下を上手にしかるべきだと思います。僕にはできませんでしたが、叱る必要に迫られているから叱るのだというのが伝われば、部下も嫌にはならないのではないかと思います」

  • 文章には書き手の"呼吸"が現れる

 会社員から小説家になった今も仙台で活動する伊坂氏。なぜ、仙台にこだわるのだろうか。伊坂氏は、その人の息継ぎのリズムや生活のテンポなどは、無意識に文章に映るという。彼の場合、歩くことが大好きで、歩きながらいろいろと想いをめぐらし、アイディアを練るそうだ。
「仙台の良いところは、近場で充分に満足できる設備が揃っていて、それら全部に歩いて行けるところです。刺激も多すぎず、のんびり加減が僕にちょうど良くて、落ち着いて、安心して生活できる。他で書いていたら、ずいぶん違ってしまっていたでしょうね」
 自分のテンポにあった場所で、真面目で当たり前のことを、わかりやすく表現する。そんなリズムを身につけた伊坂氏から発信される文字は、これからもわたしたちの心に残るに違いない。