Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

☆比較ワイン文化考 - 麻井宇介

比較ワイン文化考―教養としての酒学 (中公新書 612)

比較ワイン文化考―教養としての酒学 (中公新書 612)

「ラテン系諸国の食事をみると、彼等が飲食に生きがいをかけ、美味なるものへ人生を傾倒させていくさまが、ひしひしと感じられる。贅沢とか豪華とかいう言葉はふさわしくない。調理すること、味わうことにおいて入念なのである。生活の中のその時間を決して惜しまない。そして、彼等の飲食は、共に食べ、共に飲み、共に生きるよろこびを分かちあうことによって充実し、完結したものとなる。働くための糧として食べるのではない。
 ひるがえって、日本人の食事観には、禁欲的な作法や節制を美徳とするところがある。」
「イタリー、フランスからドイツへ入ると、食卓を囲む雰囲気は明らかに変わってくる。それは、ドーバー海峡を越えてイギリスへ渡ると、もっとはっきりする。食事は単に空腹をみたすものであればよい。いや、夕食をハイ・ティーと称する軽い一皿と紅茶ですますにいたっては、その空腹さえみたされなくなってくる。北の国の夜は長い。暖炉の前でポートをちびりちびりやっていても、はた目には、これは大変な忍耐だと思われてならない。」
「家庭にあるべきはずの料理が、家庭の外で価値を持ち始めたというところに、日本人の常食が「おふくろ」の時代と様変わりしたことをうかがわせている。」
「アメリカ型文化生活へのあこがれは、西洋の食文化をゆるやかに同化していった和洋折衷の明治・大正とは異なり、欧米の食文化の断片をそのまま受け入れる和洋混淆の状況を現出する発端となった。」

「乾燥地帯の食文化がワインを生んだことは、その文化の特色が肉食であることとともに、重視すべき事柄である。」
「これは「乾燥」という風土における人間の在り方に発しているのであって、一般論として、西洋風の食事が普及すれば、それに伴ってワインの消費もふえると考えるのは間違いである。」
「ところが、日常の食生活でわれわれが食べている西洋風の料理は、ワインがなくても一向かまわない。〜もっと肉食化が進んだらワインが必需品になるかもしれないと思うのは、食文化のレベルを考えない人の発想である。」