Bi-Bo-6

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日常のあれこれ

☆文学の運命 - 大岡昇平

「本というものには、必ずそれを書いた人間があり、それはわれわれと同じように朝起きて夜寝る人間であるということは自明の理であるべきだが、」
「文学作品について、作者の生活や経歴を考うべきかどうかの議論が、ときどき蒸し返されている。作品は独立に鑑賞されるべきであって、どういう形で作者の生活が投影されているかは*の論議であるという意見と、作者がそれを生むに至った必然は、表現を決定しているという意見である。」

  • もっと考えながら読め

「月に何百冊という本が出版される現在、読書の速度はかなり増進していると見なしてよい。読者は完全に受身な状態で、行から行へと通過するのであって、時たま自らあらぬ方に進む想念の航路も、読み進む必要から中断される。こうしてわれわれは例えば成長をとめた筍のようなものを、たくさん頭に生やして、本を読み終わるのであって、依然として読み始める前と同じ不安の状態に残されることが多いのは、僕一人の経験ではあるまい。」
「日本人はもっと自信を持つべきであるという議論が行われているが、われわれが電車の中や寝床の中で本を読む習慣を持ち続けている以上、確固たる自信に達することはできないように思われる。〜まずこの点を改善する必要があることはたしかだ。自信とは他者との比較においてあるものだから、むろんこの場合外国が考えられているわけである。違った国土に進んだ文化を学び、摂取するのは必要である。明治開国の先達はこれを精根尽くして遂行した。彼らはことごとく国内の経綸については異常な自信家であり、その見識に基づいて外国事情を判断したのである。」
「みんな考えながら読んでいたのである。」